- 田内 志文
- 2011-09-05 (月)
- 小説
17、
パイトゥーンは、机の上におかれたままの卒業アルバムに目をやりました。ひとりひとりの顔に「×」が描かれています。残っているのは、たったひとり。
ラファエロの体をそっとなでながらそれを見ていると、自分にとって新しい人生がはじまりかけているような、どこかがすこし不安でくすぐったいような、ふしぎな気持ちになりました。これまでは、太い碇に過去につながれて、将来は不安ばかりのように感じてきました。ですがもしかしたら、こんなことをきっかけに、思いがけない将来へと進んでいくことができるのかもしれません。細い糸をぷつりと切り、自由な凧のように空へと飛んで行けるような気がするのです。
「ラファエロや」優しい声で、パイトゥーンが呼びかけます。ラファエロは、目を細く開けてパイトゥーンの顔を見上げ、小さな声で鳴くと、しっぽをぱたりと振ってみせました。たったそれだけのことが、パイトゥーンには、とてつもなく大きな未来への希望のように思えました。
「神は二度チャンスをくださる」というあの立て看板の言葉を、ふとパイトゥーンは思い出しました。そして、凧の糸を切ってラファエロとどこまでも飛んで行こうと心に決めたのでした。
「お前もついてきてくれるね」パイトゥーンはそっとそう声をかけると、ラファエロの頭をなでるのでした。
- Next: フランスの食べ物(1)
- Prev: 顔なしエイミーと四枚の窓