- 田内 志文
- 2010-05-24 (月)
- 小説
1、
ずっとずっと昔、まだ僕が生まれるよりもだいぶ前のこと。一度だけ世界じゅうどこにも朝がこなかった日がありました。そんな馬鹿なと思うでしょうが、これは本当の話。しかもその日は、世界のあちこちの街という街で、それは大きな流れ星が見えた日でもあるのです。これは僕が小さかったころ、まだ元気だったおばあさんから聞いたお話。君が昨日の夜に流れ星を見たと大はしゃぎしてたので、久しぶりに思い出しました。
さて、いつも君は朝までぐっすり眠っているから、どうやって夜明けが来るのかきっと知らないでしょう。実のところ夜明けを運んでくるのは、大きな獣なのです。おばあさんが言うには、雄牛のような角を生やし、馬のような脚とひづめを持つ、大きな鋭い牙を二本生やした黒い毛むくじゃらの獣なのだということです。ごわごわとして毛で覆われた顔に、ぎょろりと大きな目玉がふたつ。太くたくましい腕と、とがった爪。名前を「暁の獣」といいます。この獣が夜から夜へ、街から街へと、長いしっぽをほうき星の尾みたいに引きずりながら飛び回って、朝を運んできてくれるのです。
どうやって朝を運んでくるのかというと、これが実に面白いのですが、街のいちばん高い建物のてっぺんでヴァイオリンを弾くのだとか。すると、その調べに呼び寄せられるように、地平線が明るくなってくるのだそうです。ほら、この街にも尖った教会の塔が建っているでしょう? ちょっと目を閉じて、あの塔のてっぺんでヴァイオリンを弾く暁の獣を想像してみてください——。
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