- 田内 志文
- 2010-03-03 (水)
- 小説
8、
しばらく歩いたところに、大きな平たい岩があった。僕は思わず息を飲んだ。その岩に寄りかかるようにして、一体の白骨死体が座った姿勢のまま転がっていたからだ。死体は、かつてワンピースだったに違いない白い布きれを身につけていた。その頭蓋骨にはすっかり汚れた黒い髪の毛がくっついていた。
エリカに間違いなかった。僕は彼女の正面に力無くひざまづくと、がっくりとうなだれるように垂れ下がった彼女の頭に触れようと手を伸ばした。だが、触れば崩れ落ちてしまいそうで、なかなか触ることができなかった。手が、ぶるぶると震える。どうしてよいのか分からずその全身を見れば、左足の臑の骨が、まん中あたりで折れている。姿を消してからの十年以上、彼女はここにこうして座っていたのだ。おそらく、僕と同じように飛行船を追いかけ、ここに落ちてしまったのに違いなかった。どうにか這い上がろうとしたのだろうが、おそらく、落ちたときに左足を折ってしまったのだろう、彼女にはどうすることもできず、絶望に打ちひしがれていたのだ。やがて腹を空かせ、ふらふらと彼女が歩き出す。そして、すっかり疲れ果てた彼女はこの岩にもたれて眠るように死んだのかもしれない……。
想像すればするほど、僕は胸が苦しくなった。こんなところで、さぞかし孤独だったろうに。涙がこぼれ、震える指先が彼女の頭に当たった。彼女の頭蓋骨が地面に転がり落ち、それでバランスを失ったのか、体の骨も横向きにずり落ちるようにして地面に転がった。僕は上着を脱ぐとその骨を残さず拾い上げ、くるみ、腰に縛り付けた。そして、なんとか崖を登りきると町へと引き返し、教会の納骨堂に納めた。
それからしばらくして、僕は町を離れた。帰ってくるつもりはなかった。だが、やがて自分が死を迎えるときには、必ずこのエメルージュに帰ってこよう。それだけは、固く胸に誓っていた。そして、あの飛行船に僕も乗るのだ。