Articles - 明川哲也

つまみ屋五郎兵衛 「好」の巻、その2

「ゲテモノって・・・そういう言い方はないだろう、マイちゃん」
 坂本さんはゲソが挟めそうなぐらい鼻にしわを寄せてみせた。
「だって、食べたことないし」
 マイちゃんは下を向き、肩をすぼめている。
「お父さんは酒を飲まなかったのか? イカの塩辛だってワタで作るんだからさ」

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つまみ屋五郎兵衛 「好」の巻、その1

 酔った挙げ句に吐く者がいる。
 そうした酔客を初めて見かけた頃、五郎兵衛は自分の目を疑った。

 食うだけ食い、飲むだけ飲み、平気でそれを路面にぶちまける。地雷とともに飢餓も蔓延していたカンボジアから来た身には、とうてい考えられないことであった。

 エチケット以前の問題だとも思えたし、歴史は繰り返すという意味で感じるところもあった。ローマ帝国が滅亡に向けて峠から転がり始めた時、慢心の果てに貴族がやっていたことを、日本ではビジネスマンがやっていた。

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つまみ屋五郎兵衛「芯」の巻、その四

「芯」の巻、その四

 

 ヨウスケがつまみ屋「五郎兵衛」にふらりと入ってきたのは、もうかなり遅い時間になってからだった。ちょうどリフォーム屋の横山さんと本屋の大西さんが言い争いをしている最中で、他のお客の手前どうやめてもらおうかと五郎兵衛が算段をしているところだった。

「おう、喜楽亭」
「なんだ。そっちはもう閉めたのか?」

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つまみ屋五郎兵衛 「芯」の巻、その三

 「芯」の巻、その三
 

 アパートの二階にあるヨウスケの部屋は、ブザーを押しても、ドアを叩いても反応がなかった。五郎兵衛は階段の鉄柵にもたれるようにしてしばらく佇んでいたが、バッグからティッシュペーパーを取り出すと、ボールペンで「きたよ。つまみや」とだけ書きつけ、それをドアの郵便受けに挟み入れた。

 ヨウスケは意味もなく街に出て、どこかをぶらぶらと歩いているのかもしれない。五郎兵衛は来た道を戻りながらそう思った。

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つまみ屋五郎兵衛 「芯」の巻、その二

 「芯」の巻、その二

 夕方店を開けるまでに時間があった。どのみち配達では頼めなかった食材・・・香菜やフクロタケを買いに出かけなければならない。それなら先に、ヨウスケのアパートまで足を伸ばしてみよう。とにかく訪ねて顔だけでも見てこようと五郎兵衛は思った。

 山手線の高架下を歩きながら、五郎兵衛は再び「芯」について考えていた。

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